企業の採用担当者の方とお話をすると、人材の確保と人材の定着についてとても苦労をされているようです。
とくに大企業に比べてリスクのあるベンチャー企業では、優秀な人材の確保が難しいようです。
その理由としては、資金的な余裕がなく高い報酬を支払うのが難しい事や経営状態が安定していないということがあると思います。
ベンチャー企業の魅力としては、やりいがいや自分の成長機会の確保というものもありますが、この素晴らしいプロダクトをみんなに使って欲しい!このサービスを利用すれば、みんなが困っていた事を解消できる!といったような創業者の熱い想いに共感し、苦楽をともに会社の成長を目指す仲間といったような社員同士の一体感そして金銭的な魅力というものもあります。
そして、創業期に苦楽を共にした仲間達の働きに十分な報酬を分け与える方法として、ストックオプションというものがあります。
今回は、ベンチャー企業向けに「ストックオプション」についてご紹介いたします。
ストックオプションを上手に活用すれば、ベンチャー企業でも優秀な人材の採用や従業員のモチベーションアップがはかれる可能性があります。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、簡単に言うと「いつでもストックオプションを発行した会社の株式をあらかじめ定められた価格(行使価格)で買うことができる権利」のことです。
株価が100万円の会社の株式を購入しようとすると、当然100万円の資金が必要です。しかし、その会社のストックオプションを保有していると、仮に行使価格が50万円だとすると、50万円の資金があれば、その会社の株式を取得することができるのです。
そして、その株式をすぐに市場で売却をすれば、50万円の売却益を得ることができます。
インセンティブとしてストックオプションの利用
株式は、会社の価値(企業価値)をそれぞれの持ち株比率に応じて所有しているものです。
そのため、会社の価値が上がればそれだけ株式の価値も上がります。
したがって、設立の早い段階で株式を取得し、その後会社の価値が大幅に上がった後に、株式を売却すれば、売却時の価格と取得時の価格の差(企業価値の上昇分)が利益となります。
当然売却時の価格が高ければ高いほど利益は大きくなります。
しかし、従業員が非上場の段階で会社の株式を取得するのは現実的にはむずかしいでしょう。
必ず上場するという保証もないですし、株式の購入資金を用意することも容易にはできません。
しかし、ストックオプションであれば無償で付与されるため、従業員に金銭的負担はありませんし、ストックオプション付与時の株価が行使価格となりますので、早い段階でストックオプションを付与しておけば、それだけ十分な売却益を確保することができます。
株式とストックオプションの違い
インセンティブ付与ということであれば、株式を持つとう方法もあります。
ストックオプションを付与する方法と株式を保有する方法は、株式を売却した時の売却益としては変わりませんが、
手続き面、税制面、従業員退職後の処理などで違いがありますのでどちらを使うかという点につき検討が必要です。
ストックオプションのメリット・デメリット
メリット
優秀な人材の確保につながる
採用当初は高額な報酬の提示が難しい場合でも、ストックオプションを付与することにより、将来大きな報酬を得られる可能性があるため優秀な人材の確保ができる可能性があります。
また、通常は従業員が退職するとストックオプションが消滅する設計になっていることから、人材の流出防止にもつながります。
会社の成長が加速する
優秀な人材の確保や従業員のモチベーションのアップにより会社の成長を加速させることができます。
会社の成長=株価の上昇がストックオプションを行使した際の自身の利益に影響することから、従業員にも株式上場や株価上昇へのインセンティブが働きます。
そのため、従業員が株価上昇のために自発的に行動し業績が上がる可能性があります。
デメリット
モチベーションが低下することもある
市場環境などにより成長が見込めない場合や株式上場が不透明になった場合など、かえってモチベーションが低下する可能性があります。
特に、ストックオプションによる報酬を目当てに入社した者は、モチベーションが大きく低下し退職してしまう可能性もあります。
適切な内容の設計が難しい
ストックオプションを発行するためにはその内容として、目的である株式の内容、行使期間、行使条件、譲渡制限などを定める必要があります。 特に重要なのは行使条件です。
行使条件の内容としては、例えば、行使時における役員や従業員の身分保持や株式上場までは行使を認めない定めなどがあります。 行使条件を補完するものとして、割当契約書を活用する場合もあります。
例えば、ストックオプションにより多額の報酬を得た従業員が、株式の上場後にすぐに辞めてしまったという事例もあり、このようなことを防止するために、割当契約書において、一括の行使を禁止し、分割して行使する事を約束する場合などです。
メリット・デメリットを考慮して、インセンティブを働かせるためには、割当契約書の締結も含め、ストックオプションの適切な設計が重要になります。
設計を誤ると多額の税金負担が発生する場合がある
ストックオプションには、税務上の一定の要件を満たすことにより、税務の取り扱いが異なる税制適格ストックオプションとすることができます。
税制適格ストックオプションとするためには、いくつもの要件を満たす必要がありますので注意が必要です。
ストックオプション発行の注意点
計画的に発行すること
株式上場が見えてきた段階で急いでストックオプションを発行するという事も可能ではあります。 しかし、上場直前になればなるほど報酬としてのメリットは低くなってしまいます。
上場直前になると、行使価格は設立直後に付与されたストックオプションに比べて、大きく上昇しているのが通常です。
そのため充分な利益が得られ可能性があります。
インセンティブとして効果的にストックオプションを活用するためには、設立当初から計画する必要があります。
発行上限がある
ストックオプションを大量に発行することはお勧めしません。
株式上場においては、上場審査があります。ストックオプションがあまりにも多く発行されている場合には、この審査において上場が難しいと判断されるケースがあります。
ストックオプションは、行使されると株式に変わるため、会社の価値が変わらないのに株式が大量に増えて、株価が低下することになるからです。
なお、どの程度まで発行してよいかという点について、明確な基準はありませんが、発行済みの株式の10%までが目安であるという話もあります。
発行手続きに注意
スストックオプションの発行については会社法所定の手続きが必要です。
ただし、ベンチャーキャピタルやエンジェルからの出資を受けている場合には、出資の際の契約等で会社法の手続きとは別に事前の交渉などが必要な場合があります。
ストックオプションを効果的に活用するためには、設立当初から、上場まで資本政策に照らし合わせ、適切な時期と数をあらかじめ計画する必要があります。 資本政策は後戻りできませんので早めに資本政策に詳しい会計士などの専門家に相談することをお勧めします。
ストックオプションは、経営者と従業員が株式上場という同じ目標をもつことができ、かつ会社の成長を加速させることができる可能性があるツールです。
株式上場を目指すベンチャー企業は、優秀な人材の確保や従業員のモチベーションアップのため上手に活用してください。
ストックオプションの発行をご検討される場合には、是非ご相談下さい。