今回は、取締役の解任手続きについて解説します。
解任の手続き
取締役は、株主総会の普通決議によって解任することができます。従業員の解雇手続きに比べると一見簡単なように思われますが、正当な理由なく解任された取締役については、損害賠償請求ができますし、会社の登記簿に解任した旨が残りますので、解任は慎重に検討する必要があります。
ベンチャー企業では、多くの場合、創業者が過半数以上の議決権を保有しているため、いつでも取締役を解任できると安易に考えられている場合があります。
しかし、解任には、後記に説明するとおりリスクがありますので、まずは、辞任するよう交渉することが大切です。
辞任に応じてくれない場合には、取締役の改選期(任期が満了する定時株主総会)にその取締役を再任しないという方法もあります。
この場合に、損害賠償の問題もありませんし、登記簿には、退任(任期満了により退任)した旨が公示されます。
ただし、譲渡制限のある会社では、任期を10年まで伸長することができるため、仮に任期を10年としていた場合には、任期満了による退任は難しいでしょう。
損害賠償請求
解任された取締役は、その解任につき正当な理由が無かった場合には、会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます。
損害とは、任期満了までの役員報酬などがあげられます。
「正当な理由」について、該当例が明確に規定されている訳ではがありませんので、その解釈が難しい場合があります。
法令違反があった場合や心身の故障により業務が行えない場合については、正当な理由とえますが、相性が悪かった、期待するほどの能力がなかった、などという理由は、一律に判断することはできません。
登記簿の記載
取締役につき、就任や退任など変更があった場合には、2週間以内に変更登記が必要です。
その際、変更があった年月日のほか、原因が記載されます。
そのため、会社が取締役を解任した場合には、解任した旨が公示されることとなります。
つまり、会社が解任した事実が公になってしまうということです。
登記された事項は、3年程度で、履歴事項証明書からは、見えなくなりますが、閉鎖事項証明書にはその記載が残ります。
登記記載例
取締役Aを解任した場合
取締役 A 平成○年○月○日解任
取締役Aを改選期に選任しなかった場合
取締役 A 平成○年○月○日退任
IPOやM&Aの際に解任の経緯などを問われることとなるでしょうし、解任された取締役にとっても、解任された事実が残りますので、望ましくありません。
取締役の任期について
成長が早いベンチャー企業では、人材の入れ替えも多く、想定したほど働きがないなどという理由で、取締役に辞めて欲しいというケースは多く見られます。
このような場合も想定し、任期を安易に伸長することはお勧めできません。
株主や取締役が常に身内のみという中小企業では、任期は、10年に伸長しても問題ないと思われますが、成長の早いベンチャー企業では、取締役の任期は、原則の2年または1年程度に短縮しておくのがよいと考えています。