個人事業主から法人化を考える際、どのような手続きが必要で、どれくらいの費用や期間がかかるのでしょうか。法人化は、事業規模の拡大や税制面でのメリットを考慮して選ばれることが多いですが、手続きにはいくつかの重要なステップと注意点があります。
この記事では、法人化に必要な手続きの流れ、かかる費用、期間について詳しく解説します。個人事業主から法人に転換する際のポイントを押さえ、スムーズに進めるための参考にしてください。
個人事業主から法人化への手続きについて
法人化への手続きは、以下のステップで進めます。
- 会社の基本事項を決める
- 会社用の印鑑を用意する
- 定款の作成及び認証を受ける
- 資本金を払い込む
- 登記申請する
会社の基本事項を決める
法人化を進める際、まず決めるべきなのが会社の基本事項です。具体的には以下が挙げられます。
- 会社名(商号)
- 本店所在地
- 資本金
- 事業目的
- 役員や株主の構成
- 決算期
また、株式会社や合同会社といった法人の形態も選択が必要です。これらの要素は、事業の方向性や運営体制を左右するため、慎重に検討しましょう。
会社用の印鑑を用意する
法人化の手続きには、以下の会社用印鑑を準備する必要があります。
- 代表印(会社実印):登記申請時に必須。
- 銀行印:法人口座の開設に必要。
- 角印:請求書や発注書などの書類に押印。
- ゴム印:社名や住所を手軽に押せるため、事務作業が効率化。
特に代表印は重要で、これがないと法人化ができません。早めに用意し、スムーズな法人化を進めましょう。
定款の作成及び認証を受ける
定款とは、会社の基本ルールを定める重要な文書です。法人の目的や会社名(商号)、本店所在地、資本金、発起人の情報などを記載し、株式会社を設立する場合は公証役場で認証を受ける必要があります。
定款の作成時に記載する主な内容は、以下のとおりです。
【絶対的記載事項】※必ず記載が必要
- 会社の目的
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 出資される財産の価額(資本金)
- 発起人の氏名・住所
- 発行可能株式総数
株式会社の場合、公証役場にて定款の認証手続きが必要です。以下の書類を提出する必要があります。
- 定款
- 発起人全員の印鑑登録証明書(各1部、3ヶ月以内)
- 収入印紙40,000円分(電子定款の場合不要)
- 認証手数料15,000~50,000円(資本金による)
- 謄本代(1枚250円)
- 代理人が申請する場合は委任状及び代理人の確認資料
公証役場へ定款をFAXなどで送ると、事前に内容を確認してもらえるため、スムーズに認証を進められます。なお、合同会社の場合は定款の認証は不要です。
資本金を払い込む
定款の認証後、資本金を発起人の個人口座へ払い込みます。この時点では法人口座が開設できないため、振込先は個人口座を指定しましょう。支払いは銀行振込が一般的で、手数料が発生する点に注意が必要です。
以下の通帳のコピーは登記申請時に必要となるため、大切に保管しましょう
- 表紙
- 1ページ目
- 資本金の振込記録があるページ
登記申請する
会社設立の最終ステップとして、法務局で登記申請を行います。申請は 郵送・窓口・オンライン のいずれかで可能です。申請が完了した日が会社設立日となるため、希望する日程に合わせて準備を進めましょう。
【主な必要書類】
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙(収入印紙を貼付)
- 定款(認証済み)
- 発起人の決定書
- 取締役・代表取締役の就任承諾書
- 取締役の印鑑証明書
- 資本金の払込みを証する書面
- 印鑑届出書
- 「登記すべき事項」の書面またはCD-R
注意点として、申請後、法務局から完了通知は届きません。不備があった場合のみ連絡があるため、提出後は確認を怠らないようにしましょう。
法人化するメリット
個人事業主からの法人化には、主に以下のメリットがあります。
- 一定以上の所得なら節税につながる
- 会社の信用度が上がる
- 経費の計上範囲が広がる
一定以上の所得なら節税につながる
法人化すると、所得税の累進課税が適用される個人事業主に比べ、税負担を抑えられる可能性があります。個人事業主の所得税率は最大 45% ですが、法人税は以下のように一定で、高所得になるほど法人の方が有利です。
課税所得額 | 個人事業主(所得税率) | 法人(法人税率) |
195万円以下 | 5% | 15%(800万円以下) |
195万円超~330万円以下 | 10% | |
330万円超~695万円以下 | 20% | |
695万円超~900万円以下 | 23% | 15%(800万円以下) 23.2%(800万円超) |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 23.2%(800万円超) |
1,800万円超 | 40~45% |
このように、法人では所得が一定額を超えても税率が大きく上がらないため、事業の成長に伴う税負担の増加を抑えられます。年間の所得が高くなってきたら、法人化を検討するのも一つの方法でしょう。
会社の信用度が上がる
法人化すると、社会的な信用度が向上するのが大きなメリットです。法人は経営体制が整っていると見なされ、取引先から本気で事業に取り組んでいると判断されやすくなります。法人化により取引先が増え、事業が拡大しやすくなり、金融機関からの融資も受けやすくなることが期待できるでしょう。さらに、求職者にとっても法人の方が信用され、優秀な人材を集めやすくなります。
経費の計上範囲が広がる
法人化すると、経費の計上範囲が広がり節税効果が期待できます。経費として認められる主な項目は以下のとおりです。
- 住居費
- 車両関連費
- 出張手当
- 生命保険
- 退職金
法人設立後の手続き
法人設立後は以下の流れで手続きを進めましょう。
- 登記事項証明書・印鑑証明書を取得
- 会社名義の銀行口座を開設
- 法人設立届出書の提出
- 個人事業主の廃業届提出
- 社会保険・労働保険の加入手続き
会社名義の銀行口座を開設
法人設立後、会社名義の銀行口座を開設します。個人用と会社用の資産を分けることで、取引先からの信頼が高まり、税務処理や融資申請がスムーズになります。法人口座開設には審査があることに注意が必要です。
登記事項証明書・印鑑証明書を取得
法人設立に必要な登記事項証明書は、法人設立届出書の提出に必須です。 登記事項証明書及び法人の印鑑証明書は法務局で取得できます。これらの証明書は、設立から2ヶ月以内に届け出る必要があるため、早めに準備することが大切です。また、印鑑証明書を取得するには法人の代表者が印鑑登録を行っていることが前提となるので、事前に登録しておきましょう。
法人設立届出書の提出
法人設立後、各機関に法人設立届出書を提出する必要があります。提出期限と必要書類について、以下の表で確認しましょう。
提出機関 | 期限 |
税務署 | 設立日から2ヶ月以内 |
都道府県税事務所 | 各都道府県によって異なる |
市区町村役場 | 各市町村によって異なる |
個人事業主の廃業届提出
法人設立後、個人事業主の廃業届を税務署に提出する必要があります。廃業届は、個人事業を法人化する際に提出し、税務署に登録された事業主名義の事業を終了させるための手続きです。これにより、個人事業主としての税務手続きが完了します。提出期限については、廃業から1ヶ月以内です。
社会保険・労働保険の加入手続き
法人設立後、従業員を雇う場合は社会保険と労働保険への加入手続きが必須です。
社会保険は、健康保険、厚生年金保険、介護保険などを含み、従業員の医療や年金、介護を保障する制度です。年金事務所に以下の書類を提出します。
【社会保険】年金事務所への提出書類
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
労働保険は、従業員の労働環境を守るための保険で、主に労災保険と雇用保険が含まれます。提出書類は以下のとおりです。
【労働保険】労働基準監督署へ提出
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
【雇用保険】ハローワークへ提出
- 適用事業所設置届
- 被保険者資格取得届
法人化にかかる費用
以下は、法人化にかかる費用について、株式会社と合同会社のそれぞれの項目と金額をまとめた表です。
費用項目 | 株式会社 | 合同会社 |
収入印紙代 | 4万円(電子定款で不要) | 4万円(電子定款で不要) |
定款の認証手数料 | 1.5〜5万円 | なし |
謄本の発行手数料 | 2千円 | なし |
登録免許税 | 15万円または資本金額の0.7% | 6万円または資本金額の0.7% |
株式会社は定款の認証や謄本発行が必要で、費用が高くなります。一方、合同会社は比較的簡便で、手数料も少なく抑えられます。会計事務所に依頼する場合は、別途その依頼料が発生することも念頭に置いておきましょう。
法人化にかかる期間
法人化にかかる最短期間は、株式会社と合同会社それぞれで以下の表のとおりです。
法人形態 | 最短期間 |
株式会社 | 約2週間~3週間 |
合同会社 | 約1週間~2週間 |
株式会社は合同会社に比べて法人化にかかる期間が長めですが、いずれの場合も登記申請が完了するまでに1週間程度かかります。法人口座の開設も考慮すると、1ヶ月程度を見込んでスケジュールを立てることをおすすめします。
まとめ
法人化には基本事項の決定や印鑑準備、定款作成、資本金払い込みなどの手続きが必要です。法人化により税制優遇や信用向上、経費計上範囲の拡大などのメリットがあります。
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