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会社を止めるのは業績ではなく、分散した支配権かもしれない
中小企業の経営者と話をしていると、
「株式は昔からそのままだから」
「親族が少し持っているだけだから」
「共同創業者と仲が良いから問題ない」
という言葉をよく耳にします。
確かに、日常の経営において株式を意識する場面は多くありません。
売上や採用、資金繰りと比べると、株式の問題は後回しにされがちです。
しかし、司法書士として多くの会社を見てきた経験から言えることがあります。
それは、
中小企業の大きなトラブルは、株式分散から始まることが少なくない
ということです。
事業承継が進まない。
M&Aがまとまらない。
経営判断ができない。
親族間で対立が起きる。
その背景には、
株式分散という構造問題が潜んでいることがあります。
本記事では、
なぜ株式分散が危険なのかを、
経営構造の視点から解説します。
株式分散とは何か
株式分散とは、
会社の株式が複数の人に分かれて保有されている状態をいいます。
もちろん、
株主が複数いること自体が問題ではありません。
上場企業であれば当然ですし、
スタートアップでも複数株主は一般的です。
問題は、
意図せず分散していること
です。
例えば、
創業時に親族へ渡した株式。
共同創業者へ渡した株式。
退任役員が持ったままの株式。
相続によって分散した株式。
こうした株式が整理されないまま残っている状態です。
経営者は、
「実際には自分が経営している」
と思っています。
しかし法律上は違います。
株式会社は、
株主によって支配される仕組みだからです。
つまり、
株式分散とは、
会社の支配権が分散している状態でもあるのです。
なぜ株式分散が危険なのか
理由はシンプルです。
会社の重要事項は、
最終的に株主が決めるからです。
例えば、
取締役の選任
取締役の解任
定款変更
合併
会社分割
事業譲渡
こうした重要事項は、
株主総会の決議が必要になります。
つまり、
株式を持つ人が増えるほど、
意思決定は複雑になります。
平常時には問題ありません。
しかし、
重要な局面になると、
株式分散は会社の前進を妨げる要因になります。
少数株主問題
株式分散で最も多いのが、
少数株主問題です。
少数株主とは、
会社の株式の一部だけを保有する株主です。
中小企業では、
親族
元役員
元共同創業者
古参社員
などが少数株主になっているケースがあります。
経営には関与していない。
会社のリスクも負っていない。
しかし、
株主としての権利は持っています。
そして、
会社法上、
少数株主にも一定の権利があります。
経営者から見ると、
「経営していないのに口だけ出す人」
に見えることがあります。
しかし、
法律上は正当な権利です。
その結果、
株主間の対立が起きることがあります。
特に会社の価値が上がった後ほど、
問題は大きくなります。
創業時には価値がなかった株式も、
会社が成長すると資産になります。
すると、
経営への関心が急に高まることがあります。
これが少数株主問題です。
事業承継を阻害する
株式分散が最も大きな問題になるのが、
事業承継です。
事業承継というと、
社長交代をイメージする人が多いでしょう。
しかし、
本質は違います。
事業承継とは、
支配構造の承継です。
つまり、
後継者へ経営権を移すことです。
そのためには、
株式を集中させる必要があります。
ところが、
株式が分散していると、
後継者へ支配権を集約できません。
社長は後継者。
しかし株主は親族に分散。
この状態になると、
後継者は経営者でありながら、
自由に経営できません。
形式上は承継できていても、
実質的には承継できていない状態です。
中小企業で承継が失敗する原因の多くは、
能力不足ではありません。
構造不足です。
意思決定停止を引き起こす
経営とは意思決定です。
採用する。
投資する。
借入する。
撤退する。
会社は決断によって前へ進みます。
しかし、
株式分散が進むと、
意思決定が止まります。
例えば、
親族株主が複数存在する。
それぞれ考え方が違う。
経営に関与している人もいれば、
していない人もいる。
すると、
重要な判断ほどまとまりません。
結果として、
何も決まらない。
経営において最も危険なのは、
間違った決断ではありません。
決められないことです。
株式分散は、
この「決められない状態」を生み出します。
M&Aを阻害する
近年、
事業承継の選択肢としてM&Aが増えています。
しかし、
M&Aにおいても株式分散は大きな問題になります。
買い手企業が欲しいのは、
会社の支配権です。
つまり、
株式です。
ところが、
株式が分散していると、
全員の同意を取る必要が出てきます。
一人でも反対する株主がいれば、
交渉が難航することがあります。
また、
所在不明株主が存在するケースもあります。
株主と連絡が取れない。
誰が相続したか分からない。
こうした状況では、
買い手は大きな不安を感じます。
結果として、
企業価値そのものではなく、
株式構造が原因でM&Aが成立しないことがあります。
なぜ放置されるのか
株式分散が危険なら、
なぜ多くの会社で放置されるのでしょうか。
理由は簡単です。
問題が見えないからです。
売上は毎月見えます。
資金繰りも見えます。
しかし、
株式構造は普段動きません。
だから後回しになります。
ところが、
事業承継やM&Aという人生最大級のイベントの時に、
突然問題として表面化します。
その時には、
親族関係や感情が絡み、
簡単には整理できません。
だからこそ、
問題が起きる前に見る必要があります。
株式分散は経営の自由度を奪う
私は、
株式構造とは経営の自由度だと考えています。
株式が集中していれば、
経営者は迅速に意思決定できます。
将来の選択肢も持てます。
承継する。
M&Aする。
持株会社化する。
投資家を受け入れる。
どれも可能です。
しかし、
株式が分散していると、
その自由度が失われます。
つまり、
株式分散の本当の危険性は、
会社の未来の選択肢を減らすことなのです。
まとめ
株式分散とは、
単に株主が複数いる状態ではありません。
会社の支配権が分散している状態です。
その結果、
少数株主問題
事業承継の停滞
意思決定停止
M&A阻害
といった問題が発生します。
そして厄介なのは、
問題が起きるまで見えないことです。
だからこそ、
経営者は売上や利益だけではなく、
株式構造にも目を向ける必要があります。
会社の未来を決めるのは、
戦略だけではありません。
支配構造です。
そして、
その支配構造の中心にあるのが株式です。
経営構造デザインとは、
こうした株式構造を整理し、
経営者が自由に意思決定できる状態をつくる考え方です。
会社の未来を守るためには、
まず株式分散という見えないリスクを理解することから始める必要があるのです。
ー次に読むべき記事
・経営構造デザインとは何か
・株式構造が会社を支配する理由
・会社の未来は「構造」で決まる
===
監修・執筆
松本光平
司法書士 / 経営構造デザイナー
株式・議決権・事業承継・経営権をテーマに、
「会社の未来は構造で決まる」を軸として、経営と法務を横断した情報発信を行っている。
▶ 松本光平プロフィール
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