売上よりも先に見るべきものがある
多くの経営者は、会社の成長を考えるときに次のようなテーマを重視します。
売上を伸ばす
人材を採用する
資金を調達する
新規事業を立ち上げる
もちろん、どれも重要です。
会社を成長させるためには欠かせない要素でしょう。
しかし私は、司法書士として多くの企業に関わる中で、
ある共通点を感じるようになりました。
それは、
会社の問題は、業績よりも先に「構造」に現れる
ということです。
売上が伸びている会社でも、
意思決定ができない
株主同士が対立している
後継者に権限が移せない
M&Aの話が進まない
という状況は珍しくありません。
逆に、
一時的に業績が悪化していても、
株式構造が整理されている
誰が決めるのかが明確
権限と責任が整理されている
会社は立て直すことができます。
つまり、
会社の未来を決めるのは、
売上や利益だけではありません。
その土台にある
「構造」
なのです。
経営とは意思決定である
まず前提として、
私は経営とは
意思決定の連続
だと考えています。
会社では毎日のように判断が発生します。
誰を採用するか
どの商品に投資するか
どの事業をやめるか
どの顧客に注力するか
経営者は無数の判断を繰り返しています。
そして、
その判断の積み重ねが会社の未来を作ります。
つまり、
経営の本質は
「決めること」
です。
ところが、
多くの経営者は
「どう決めるか」
には意識を向けても、
「誰が決めるのか」
には意識を向けていません。
しかし実際には、
この
誰が決めるのか
が非常に重要です。
例えば、
社長がこう考えていたとします。
「新規事業に投資したい」
しかし、
株主が反対したらどうでしょうか。
実行できません。
社長が
「会社を売却したい」
と思っても、
株主総会で承認されなければ進みません。
つまり、
経営とは単なる判断ではなく、
判断できる状態を維持すること
でもあるのです。
なぜ同じ会社なのに動ける会社と動けない会社があるのか
私はこれまで、
スタートアップから中小企業まで、
数多くの企業法務や商業登記に関わってきました。
その中で気付いたことがあります。
それは、
同じような規模、
同じような業績の会社でも、
動ける会社と動けない会社が存在することです。
動ける会社は、
意思決定が速い。
新しい投資を決められる
組織変更を決められる
事業承継を進められる
そして環境変化にも対応できます。
一方で、
動けない会社は、
何をするにも時間がかかります。
株主の同意が取れない
親族間で意見が割れる
権限が曖昧
誰が決めるのか分からない
結果として、
何も決まらなくなります。
この差は、
経営者の能力だけでは説明できません。
実際には、
もっと根本的な違いがあります。
それが
構造
です。
構造とは何か
ここでいう構造とは、
会社を支えている見えない設計図のことです。
例えば、
株式
議決権
経営権
ガバナンス
といったものです。
普段の経営では、
これらを意識する機会は多くありません。
むしろ、
営業や採用や資金繰りの方が目立ちます。
しかし、
会社の重要な局面では、
必ず構造が表面化します。
事業承継。
M&A。
共同創業者との対立。
親族株主の問題。
少数株主とのトラブル。
こうした場面で問題になるのは、
売上ではありません。
構造です。
私はよく、
会社を建物に例えます。
売上や利益は、
建物の外観です。
人材や商品は、
設備や内装です。
しかし、
構造は建物の基礎部分です。
どれだけ立派な建物でも、
基礎が崩れていれば長く持ちません。
会社も同じです。
業績が良い時には見えなくても、
環境が変わったとき、
承継や売却を考えたとき、
構造の問題が一気に表面化します。
だからこそ、
私は
会社の未来は構造で決まる
と考えています。
売上より先に構造が崩れる
経営者は売上を追います。
当然です。
会社は利益を出さなければ存続できません。
しかし、
実務の現場では、
売上より先に構造が崩れるケースを何度も見てきました。
例えば、
事業は順調なのに、
株式が親族に分散している。
社長は後継者を決めているのに、
株式は相続で複数人に分かれている。
M&Aの話がまとまりそうなのに、
過去に退任した役員が株主のまま残っている。
こうした問題は、
業績とは関係ありません。
しかし、
会社の未来を大きく左右します。
そして厄介なのは、
こうした問題は、
発生したときには手遅れになっていることが多いという点です。
構造は、
問題が起きる前に整えるものです。
問題が起きてから直そうとすると、
感情や利害関係が絡み、
極めて難しくなります。
だからこそ、
経営者は売上だけでなく、
構造にも目を向ける必要があります。
中小企業で起きる構造問題と経営構造デザインという考え方
中小企業で起きる構造問題
構造の重要性は理解できても、
「うちの会社には関係ない」
と思う経営者は少なくありません。
しかし実際には、多くの中小企業が構造問題を抱えています。
しかも、その多くは日常業務では見えません。
株式分散
最も典型的な例が株式分散です。
創業時には、
共同創業者
配偶者
親族
役員
などに株式を配ることがあります。
その時は問題ありません。
会社も小さく、
全員の方向性も一致しています。
しかし10年後、20年後はどうでしょうか。
共同創業者が退職している。
親族が経営に関与していない。
相続で株式が分散している。
すると、
会社の意思決定に関与しない人が、
議決権だけを持つ状態になります。
その結果、
株主総会がまとまらない
承継が進まない
M&Aができない
という問題が発生します。
社長依存
もう一つ多いのが、
社長依存です。
中小企業では、
営業
採用
資金調達
重要判断
のすべてを社長が行っていることがあります。
短期的には機能します。
しかし、
社長が不在になった瞬間、
会社も止まります。
これは人の問題ではありません。
構造の問題です。
本来は、
誰が決めるのか
どこまで任せるのか
誰が引き継ぐのか
が設計されているべきです。
名義と実態のズレ
これも非常に多い問題です。
例えば、
代表取締役は息子。
しかし重要な判断は父親が行っている。
登記上は承継が終わっていても、
実態としては承継が終わっていない。
こうした状態は、
金融機関や取引先との関係、
将来の事業承継に大きな影響を与えます。
会社は、
形式だけでも、
実態だけでも機能しません。
構造とは、
形式と実態を一致させる作業でもあります。
事業承継とM&Aの本質
私は、
事業承継やM&Aの本質は、
「経営権の移転」
だと考えています。
一般的には、
事業承継というと
社長交代
をイメージします。
しかし、
本当に引き継ぐべきものは、
代表者の肩書ではありません。
株式
議決権
意思決定権
信頼関係
です。
つまり、
事業承継とは、
会社の支配構造を次世代へ移転する作業なのです。
M&Aも同じです。
多くの人は、
M&Aを
「会社を売ること」
だと考えます。
しかし実際には、
会社の支配権を移転する行為です。
買い手が欲しいのは、
建物でも机でもありません。
会社をコントロールする権利です。
だからこそ、
株式が整理されていない会社は、
M&Aが難しくなります。
逆に、
構造が整理されている会社は、
承継も売却も選択肢として持つことができます。
ここで重要なのは、
事業承継とM&Aは別の話ではない、
ということです。
どちらも、
支配構造の移転
という点では同じです。
経営と法務はなぜつながるのか
私は司法書士です。
しかし、
このメディアでは
経営についても多く発信しています。
その理由は、
経営と法務が切り離せないからです。
経営とは、
意思決定です。
法務とは、
その意思決定を成立させるルールです。
例えば、
株式
議決権
取締役
定款
これらはすべて法務の領域です。
しかし同時に、
経営の意思決定を左右する要素でもあります。
つまり、
法務は単なる手続きではありません。
経営を支える構造そのものです。
だから私は、
経営と法務を別々には考えていません。
経営者が未来を考えるためには、
法務の理解が必要です。
そして、
法務を活かすためには、
経営の理解が必要です。
経営構造デザインという考え方
ここまで読んでいただくと、
会社経営には、
戦略だけでなく構造が必要であることが見えてきます。
もちろん、
売上は重要です。
採用も重要です。
商品開発も重要です。
しかし、
それらはすべて
構造の上に成り立っています。
株式。
議決権。
経営権。
ガバナンス。
事業承継。
これらを整理しないまま成長すると、
会社はどこかで行き詰まります。
逆に、
構造が整っていれば、
会社は将来の選択肢を持つことができます。
承継することもできる。
M&Aすることもできる。
投資を受けることもできる。
私は、
こうした
会社の未来を支える構造を設計する考え方を、
「経営構造デザイン」
と呼んでいます。
経営構造デザインとは、
会社の株式や意思決定構造を整理し、
経営者が自由に意思決定できる状態を作ることです。
目的は、
会社を縛ることではありません。
むしろ逆です。
経営者の自由度を守ること。
そして、
将来の選択肢を失わないこと。
そのために、
構造を整えるのです。
まとめ
会社の未来は構造で決まる
経営者は、
売上を伸ばすために努力します。
人材を育てます。
資金を集めます。
しかし、
その前提として、
会社を支える構造があります。
誰が会社を支配しているのか。
誰が意思決定を行うのか。
株式はどうなっているのか。
承継はできるのか。
これらの問いに答えられない会社は、
いつか構造問題に直面します。
会社の未来は、
戦略だけでは決まりません。
売上だけでも決まりません。
会社の未来は、
「構造」で決まる。
そしてその構造を理解することが、
経営の自由度を守り、
未来の選択肢を広げる第一歩なのです。
ー次に読むべき記事
・株式構造が会社を支配する理由
・なぜ中小企業は「構造問題」で止まるのか
・事業承継とは何か
・経営と法務はなぜつながるのか
・経営権とは何か
===
監修・執筆
松本光平
司法書士 / 経営構造デザイナー
株式・議決権・事業承継・経営権をテーマに、
「会社の未来は構造で決まる」を軸として、経営と法務を横断した情報発信を行っている。
▶ 松本光平プロフィール
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